ステッキといえば、高齢者が使う道具というイメージが強いが、歩行補助、旅行、登山など、実はその用途は広い。今や欧米では、ファッションの一部として取り入れられている。そういった先進国に比べると、日本のステッキ使用率はまだまだ低いといえるだろう。高橋英雄さんは、木製のステッキを専門に作る、日本に数少ない職人の1人。独学でステッキ製作の技術を学んで20年。実用的な用途だけでなく、ファッションアイテムともなりえる新たなステッキ作りに取り掛かろうとしている。
――いろんな素材のステッキがありますね。
「木の種類でいうと、広葉樹では黒檀、紫檀、鉄刀木(タガヤサン)。これは木の中では比較的高級な素材です。リーズナブルなものでは、樫、メープルがあります。基本的な形は共通ですが、柄の部分は種類がたくさんあります。希望があれば、今ここにある以外の柄をつくることも可能です。本体の部分は、木のみで作られたシンプルなものと、ジョイントの部分にシルバーなどのリングを入れたものの2種類があります。デザインもすべて自分で考案し、製作しています」
――金属製のものも多く出回っていますが、木製のよさはどこですか。
「金属製だとアルミのものが主流ですが、木製との違いはまず重量です。アルミはとにかく軽いのが特徴で、木製はほどよい軽さです。ステッキの場合は、ある程度の重量がある方が前後に突きやすいと思います。それともうひとつは、地面に突いたときの音でしょうか。金属製のものは"カツ、カツ"という乾いた音がしますが、木製は"コン、コン"というつまった音がします。あとは触った感触や、木製の風合いを好まれるかどうかですが、私自身はやはり本物の木が好きです。よく家具を買うときに、"木目調"とかありますよね。ああいうのは大嫌いです(笑)。やはり、本物でしか出せない質感があります。それに、木製の方が修理もできるので長く使えると思います」
――この道に入られたきっかけはなんですか。
「父の家系は代々に継ぐステッキ専門の問屋です。創業は明治15年、ステッキ専門としては、日本で初めての会社になります。私はというと、大学卒業後の2年間は普通に会社員をしていました。その後、物をつくること自体は好きだったので、改めて木工の職業訓練校に入学しました。1年間基礎を学び、ビリヤードのキューを製作する会社に就職したのです。8年弱勤めた間に、木製の棒を形成する技術を修得しました。その頃には父の問屋でもステッキを作る職人自体が少なくなっていたこともあり、それで私がやろうか、ということで転身を決めました。自分が作って成り立つ職業は、ステッキ職人しかないと思ったのがきっかけです」
――製造工程を教えてください。
「まず、板の状態の木に柄の型を引いて、ミシンで引き抜きます。次にろくろに入れて加工していき、再度ミシンで引き抜きます。その後ルーターで丸めると粗取りされるので、ベビーサンダーでさらに丸めていきます。あとは、最後に塗装をするだけです。細かい部分はすべて手作業で調整していきます。全工程1人で行いますが、ここまで実質2時間くらいあればできます」
――オーダーメイドでも作ってもらえるのですか。
「既製品とオーダーメイド両方作っています。既製品でも、ズボンの裾直しと同じように、お客さまの身長に合わせて長さを調整しています。ステッキの長さは、身長の半分プラス3㎝くらいがちょうどいいです。もちろん、一からオーダーで作ることもできます。最近では、ご本人用だけでなく、お孫さんからおじいさんにプレゼントされることも増えてきました」
――これから、どんな人に使ってほしいと思いますか。
「現在購入されているのは70歳以上の人がほとんどですが、もう少し若い年齢層の人にも使ってほしいと思っています。そのために、従来の棒が丸いステッキに加えて、棒を敢えて角ばらせた、モダンなデザインにも取り組んでいます。素材、デザイン、塗装など、手を加えられるところはまだあります。実用的な用途はもちろんですが、洋服やTPOに合わせて、ステッキもコーディネートする。そんなスタイルを確立できたらうれしいですね」
――さらにひとつ夢があるそうですね。
「もともとステッキといえば、傘のように柄が丸くなったものをイメージすると思います。実はあのステッキを作るためには、さらなる技術と特殊な機械が必要です。でもいつかは必ず実現させたいと思っています。シンプルなデザインですが、ステッキの原点でもありますからね。原点に立ち返りながらも、木製ステッキならではの価値をさらに追求していきたいです」
写真:岡村靖子 構成:田村容子
――いろんな素材のステッキがありますね。
「木の種類でいうと、広葉樹では黒檀、紫檀、鉄刀木(タガヤサン)。これは木の中では比較的高級な素材です。リーズナブルなものでは、樫、メープルがあります。基本的な形は共通ですが、柄の部分は種類がたくさんあります。希望があれば、今ここにある以外の柄をつくることも可能です。本体の部分は、木のみで作られたシンプルなものと、ジョイントの部分にシルバーなどのリングを入れたものの2種類があります。デザインもすべて自分で考案し、製作しています」
――金属製のものも多く出回っていますが、木製のよさはどこですか。
「金属製だとアルミのものが主流ですが、木製との違いはまず重量です。アルミはとにかく軽いのが特徴で、木製はほどよい軽さです。ステッキの場合は、ある程度の重量がある方が前後に突きやすいと思います。それともうひとつは、地面に突いたときの音でしょうか。金属製のものは"カツ、カツ"という乾いた音がしますが、木製は"コン、コン"というつまった音がします。あとは触った感触や、木製の風合いを好まれるかどうかですが、私自身はやはり本物の木が好きです。よく家具を買うときに、"木目調"とかありますよね。ああいうのは大嫌いです(笑)。やはり、本物でしか出せない質感があります。それに、木製の方が修理もできるので長く使えると思います」
――この道に入られたきっかけはなんですか。
「父の家系は代々に継ぐステッキ専門の問屋です。創業は明治15年、ステッキ専門としては、日本で初めての会社になります。私はというと、大学卒業後の2年間は普通に会社員をしていました。その後、物をつくること自体は好きだったので、改めて木工の職業訓練校に入学しました。1年間基礎を学び、ビリヤードのキューを製作する会社に就職したのです。8年弱勤めた間に、木製の棒を形成する技術を修得しました。その頃には父の問屋でもステッキを作る職人自体が少なくなっていたこともあり、それで私がやろうか、ということで転身を決めました。自分が作って成り立つ職業は、ステッキ職人しかないと思ったのがきっかけです」
――製造工程を教えてください。
「まず、板の状態の木に柄の型を引いて、ミシンで引き抜きます。次にろくろに入れて加工していき、再度ミシンで引き抜きます。その後ルーターで丸めると粗取りされるので、ベビーサンダーでさらに丸めていきます。あとは、最後に塗装をするだけです。細かい部分はすべて手作業で調整していきます。全工程1人で行いますが、ここまで実質2時間くらいあればできます」
――オーダーメイドでも作ってもらえるのですか。
「既製品とオーダーメイド両方作っています。既製品でも、ズボンの裾直しと同じように、お客さまの身長に合わせて長さを調整しています。ステッキの長さは、身長の半分プラス3㎝くらいがちょうどいいです。もちろん、一からオーダーで作ることもできます。最近では、ご本人用だけでなく、お孫さんからおじいさんにプレゼントされることも増えてきました」
――これから、どんな人に使ってほしいと思いますか。
「現在購入されているのは70歳以上の人がほとんどですが、もう少し若い年齢層の人にも使ってほしいと思っています。そのために、従来の棒が丸いステッキに加えて、棒を敢えて角ばらせた、モダンなデザインにも取り組んでいます。素材、デザイン、塗装など、手を加えられるところはまだあります。実用的な用途はもちろんですが、洋服やTPOに合わせて、ステッキもコーディネートする。そんなスタイルを確立できたらうれしいですね」
――さらにひとつ夢があるそうですね。
「もともとステッキといえば、傘のように柄が丸くなったものをイメージすると思います。実はあのステッキを作るためには、さらなる技術と特殊な機械が必要です。でもいつかは必ず実現させたいと思っています。シンプルなデザインですが、ステッキの原点でもありますからね。原点に立ち返りながらも、木製ステッキならではの価値をさらに追求していきたいです」
写真:岡村靖子 構成:田村容子
たかはし・ひでお/
1965年東京都生まれ。
実家は、明治15年創業のステッキ専門店。 そこに、三男として生を受け、ステッキの維持・発展のために、ステッキ職人の道を歩む。 ステッキ職人歴20年。 屋号:T・HIDEO(ティーポイントヒデオ)
1965年東京都生まれ。
実家は、明治15年創業のステッキ専門店。 そこに、三男として生を受け、ステッキの維持・発展のために、ステッキ職人の道を歩む。 ステッキ職人歴20年。 屋号:T・HIDEO(ティーポイントヒデオ)