澄んだ音色で夏の涼を演出する風鈴。篠原風鈴本舗は、江戸時代より伝わったガラス風鈴の伝統を今も守り続けている老舗だ。しかし、ただ伝統をかたくなに守り続けているだけではない。時には企業とコラボレーションしたり、流行をデザインに取り込んだりと話題作りにも積極的だ。こうした洒脱さは、流行にとても敏感だった江戸時代の職人たちの姿を彷彿とさせる。今回は、若い感性で伝統の世界に新風を吹き込んだ篠原由香利さんに話を聞いた。
――異業種とのコラボレーションをしているそうですが。
「そうですね。今は色々なことにチャレンジをしています。伝統的な江戸風鈴が好きな方には、江戸硝子とコラボレーションした風鈴が人気です。円谷プロとコラボレーションしたウルトラマンシリーズは、先方からお話をいただいて始めたものですが、メディアでも紹介されたので、これまで伝統工芸と接点の薄かった方にも知っていただくきっかけになりました」
――コラボレーションでは、何が求められますか。
「企画によって求められることは異なるのですが、一番は『オリジナリティ』です。そのための工夫が求められますね」
――どういったところに工夫がありますか。
「短冊でウルトラマンの体を表現するなど、ファンの方たちが見て楽しんでいだたけるデザインを心がけました。一番大変だったのは、ピグモン。とても人気が高いキャラクターなので、特徴的なあのトゲを江戸風鈴でどのように表現するか本当に悩みました」
――今までにないデザインを手がけていますね。
「ロックが大好きなので、時折ドクロ柄など趣味全開の風鈴もデザインしています。若い方が、DJをやっている友人にプレゼントをしたいといって、わざわざ訪ねてきてくださったこともありました。デザインには、見た目で『欲しい』と思わせる力があると思うので、今後風鈴を展開していく上でも、デザインの力は活かしたいですね」
――子どもの頃から、職人を目指していましたか。
「子どもの頃から手伝いをしていたので、9時から5時で終わる仕事に憧れがありました。けれど、結局は大学卒業後、そのまま家業に入りました」
――仕事としてやってみて、どうでしたか。
「職業としてやってみると、ただ家にこもって風鈴を作っていればいいわけじゃないということが分かりました。接客は好きではなかったのですが、やっていくうちに、お客様と話していると得る物がとても多いことに気がついたんです。こういう柄を作ったら喜ばれるかな? というような、次の作品のヒントになったりもします」
――自分らしい作品とは、どういう風鈴ですか。
「東京の街並を切り絵風に表現した『TOKYO』は、私が手がけた中で一番反応が良かった風鈴です。東京都の伝統的工芸品チャレンジ大賞の奨励賞をいただきました。このシリーズは、若い方から年配の方まで、幅広い年代の方に購入いただける風鈴になったと思います」
――どういうところで販売していますか。
「百貨店などの催事と『えどコレ!』のホームページから購入される方が多いですね。最近は、少々値が張っても良いものが欲しいという方も増えてきたように感じています」
――海外に向けた発信はしていますか。
「空港のショップにも商品を置いたりはしているのですが、最近では、海外からも風鈴を仕入れたいというメールが来るようになりました。色々とクリアしなくてはならない問題があるので、一つひとつ解決しながら、海外にも発信していきたいと思っています」
――今後、挑戦していきたいことはありますか。
「最近になって、見ただけで涼しく感じるとか、音を聞いて涼しく感じさせる風鈴って、実はすごいものなのではないかと思うようになりました。その力を最大限に引き出そうと思って始めたのが、江戸硝子の職人さんとのコラボレーションです。風鈴に金魚の柄を彫っていただくなど、伝統の技を活かしつつ、新しい表現方法を模索しているところです。今後は、原点に戻ってこうした『いかにも江戸』という、伝統的な風鈴を中心に作っていきたいと思っています」
構成:久保田明須香
篠原 由香利(しのはら・ゆかり)/
1981年東京都生まれ。大学卒業後、父篠原裕に師事。洗練されたデザインが高く評価され、11年に「TOKYO」で東京都の伝統的工芸品チャレンジ大賞の奨励賞を受賞。13年には第30回江戸川伝統工芸展教育委員会賞を受賞。今後を期待されている。
平成23年 東京の伝統的工芸品チャレンジ大賞 奨励賞受賞
平成25年 第30回江戸川伝統工芸展 教育委員会賞受賞
